350年変わらない鰹節

静岡県・カネサ鰹節商店

(スタッフ ウメノ)

出汁や冷奴に、日本食にとってなくてはならない鰹節。
今ではスーパーにいけば簡単に手に入るけれど、昔は、どの家庭にも1本丸ごと鰹節があり、その日使う分を削るのは、子供の仕事だったという。

私たちの身近にある鰹節は掘り下げて見ると、非常に興味深い。鰹節は、世界一硬い食べ物としてギネスブックに登録されており、静岡県西伊豆町の田子地区では、約1300年前の奈良・平城京から出土した木簡に、「鰹を干して固めた荒堅魚(あらかたうお)を税として納めた」と記述されているほど歴史がある。
現在の鰹節の製造方法は、350年前とほとんど変わらない。

長い間日本人に愛され続ける、極上の鰹節を作り続け、伝統の味を守り続ける職人が、静岡県西伊豆町のカネサ鰹節商店5代目、芹沢安久さんだ。

カネサ鰹節商店5代目 芹沢安久さん


静岡・西伊豆の田子地区は古くから鰹漁が盛んだった。昭和中頃、40艘の鰹釣り漁船が出入りし、鰹節工場も40軒以上あったが、いまはで3軒のみとなった。その中で、カネサ鰹節では、昔から変わらない伝統の製造方法で、今や幻となりつつある「田子の本枯節=本枯れ田子節」を作り続けている。


明治15年より田子の本枯節を作り続けているカネサ鰹節商店


製造方法を知る前に、「本枯節」とはそもそもどんなものだろう。
鰹節は主に、「荒節」「枯節」「本枯節」の3種類に分けられる。
枯節と本枯節の違いは、カビ付けという作業工程の回数の差によって生まれる。
3回以下のカビ付けのものが「枯節」、4回以上カビをつけたものが「本枯節」と呼ばれ、より手間のかかる本枯節は主に田子地方で作られるようになった。
この土地から生まれた本枯節が日本中に広がり、地方の風土に合わせ改良されて各地で様々な「本枯節」が生まれたと言われている。

伝統と由緒ある本枯節は、途方もなく膨大な時間と手間をかけて作られているが、その製造方法を知る人は少なく、完成した商品からその工程を読み取ることも難しい。

まず、焼津から届いた鰹を特殊な4種類の包丁でさばき、大きな釜で90度前後のお湯で煮る。


使い込まれた包丁


煮込むことで、鰹の身が傷まず硬くなるため加工しやすくなり、鰹本来の味をぎゅっと凝縮させることができるという。沸騰すると身が崩れてしまうため、90度前後という絶妙の温度で2時間煮続ける。

煮上がった鰹は、毛抜きのような専用の道具を使って一本ずつ手作業で骨や鱗を取り除いていく。機械では決してできない緻密な作業がさっそく始まる。

次に、田子節を作る上で欠かせない、「手火山式培乾(てびやましきばいかん)」と言われる、焼くというより「燻す(いぶす)」工程だ。120度から130度で激しく燃え上がる薪の上に、鰹をのせる。高温で燻し乾かすことで、鰹の水分が一気に抜け、表面が乾燥するという。このとき熱が偏らないように風向きと火加減をつきっきりで調節し続けるため、高温が立ち込める火の中に一日中篭り続けなければいけない。最も重要なのが、焼いている鰹節を直接手で触れること。触ることで鰹の温度を確かめるというのだが、熟年の技を持つ者しかわからない、職人の技が光る。直接手で触るというところが「手火山式培乾」という名前の所以である。本枯節作りは実に激しい。

なぜ、こんなに手間がかかる作業をするのか。
芹沢さんはいう。

「一気に高温で燻すことで、殺菌と鰹節の中に旨味を一つにまとめて凝縮させる効果があるんです。旨味を外に逃がさない先人たちが考えた知恵を継承しています」 伝統の味を守るには欠かせない作業なのだ。

本枯節作りはまだまだ終わらない。
次は、燻した鰹節にペースト状の鰹のすり身を、表面に一本ずつ練り込んでいく修繕・形成と言われる工程である。穴や傷を塞ぐことで、乾燥したときに鰹節が割れるのを防ぐ重要な作業となる。
一本一本、それぞれの形に合わせて丁寧に整える。


本枯節作りは一本ずつ手作業で進められる


鰹を捌いて、ここまでくるのに約3日。
ほとんど全てが手作業という驚きの工程だ。

さらに約1ヶ月、培乾と冷却の繰り返しを10回ほど行うと、薪から出た煙のタールで鰹節は真っ黒になり、香ばしい香りを放つようになる。


タールで真っ黒になった鰹節



この表面についたタールを削り、形を整える作業「荒節削り」という工程がやってくる。


荒節削りも一本ずつ手作業で行われる



研磨された「荒節」


一本ずつ丁寧に研磨して生まれた「荒節」は、十分いい出汁が取れる立派な鰹節だが、最高の「本枯節」になるにはまだまだ道は険しい。

磨き終えた鰹節を綺麗に並べ、丁寧に何かの液体をスプレーするのだ。

その液体は、鰹節用に培養されたコウジカビの一種のカビ菌を希釈したもの。
吹き付けられて、表面がしっとりした鰹節は、杉樽に入れられ、湿度80%の湿った室(むろ)に閉じ込められる。


この杉樽の中で鰹節は発酵させられる


蒸し暑い室の中で、発酵させること約30日。
鰹部分に、びっしりとカビがついている。


カビがついた鰹節


このカビは、雑菌を防ぎ、鰹節特有の淡い香りをつくる大切なもの。このカビ付けの加減が非常に重要だ。さらに杉桶から出し丁寧に並べ、天日干しすることでカビ菌は死滅するので、もう一度スプレーし、杉樽の中に戻し、発酵させ、カビ付けをおこなう。カビ付けと天日干しの乾燥作業を6〜8回繰り返し、内部の水分を極限まで搾りとることで、あの鰹節のうまみが生み出される。鰹を捌(さば)いてここまでくるのに約半年。ようやく完成するのが、伝統の「田子の本枯節」だ。

旨味がギュッと凝縮され、重さは生の鰹の6分の1になった本枯節。
使う分だけ、使うときに削って大切に頂く。

鉋(かんな)のような削り器で、希望の厚さをつくりだすのは、とても難しいがうまくできた時の幸福感は、削った者しかわからない。

長く険しい工程を経て、私たちの手元にやってきた本枯節は、西伊豆町で芹沢さんたちが今日も丁寧に手作業で作っている。
手軽に手に入る、パックされた鰹節も良いが、時には職人がつくる「本物」の鰹節の味を知り、贅沢な大人の時間を楽しんでほしい。

カネサ鰹節商店
〒410-3515
静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1
TEL:0558-53-0016